「絵本とのつきあい方」5~6才のお子さんの場合
年長さんくらいになってくると、ルールや約束ごとを意識できるようになったり、他者の気持ちを理解し、共感できるようになったり、時間や数などの概念を理解できるようになったりと、目覚ましい成長をとげていきます。「大きくなったなぁ」と感じる場面もきっと多いことでしょう。
そんな時期の子どもたちには、社会性を感じるお話や家族・友だちといった身近な人との関係を描いたお話、自然を語り興味をひろげてくれるお話の絵本を手渡したいと思います。
最初におすすめするのは『はじめてのキャンプ』です。
なほちゃんは大きい子たちと一緒にキャンプに行きたくて、「わたしも いく!」と言いますが、大きい子たちは「ちっちゃいこは だめ!」、小さい子にはできないことが多い、と、口々に反対。でも、なほちゃんはあきらめず、連れていってもらえたキャンプでも、大きい子たちと同じように重い荷物を持ち、一生懸命遠い道のりを歩き、がんばって火にくべる薪も集めます。そして、夜、ちゃんとひとりでおしっこにだって。
なほちゃんは小さいからといって甘やかされず、大きい子たちと同じように、キャンプでの自分の役割を果たします。失敗しても、怖くても、強がって、ちゃんと泣かずにがんばります。もちろん、大きい子たちがそっとなほちゃんを助けてくれていますが、大きい子たちと同じようにひとりでできた、ことが、なほちゃんの自信になっています。そんなふうにがんばるなほちゃんの姿に、子どもたちは共感し、「がんばれ!」と応援せずにはいられないでしょう。役割を与えられ、それを成し遂げたときの達成感と自信。この時期の子どもたちにはたくさんの「できた!」を感じさせてあげたいですね。
次におすすめするのは『あくたれラルフ』です。
あくたればかりしているねこのラルフ。かわいがってくれているセイラにさえも、「時々、かわいいと思えなくなる」と言われるくらいです。そして、家族ででかけたサーカスであくたれたラルフは、とうとう、サーカスに置き去りに。ひとり寂しく涙を流すラルフを、迎えにきたセイラは抱きしめて、「まあ ラルフ、あたし いまでも あんたが だいすきなのよ!」と。
ラルフの姿は、自由な子どもそのもの、エネルギーに溢れています。心のままにふるまうことによって、ついつい思った以上のいたずらになってしまい、内心「しまった」と思っていても素直に謝れない、そんなこともあるでしょう。親の反応を確認しながら、少しずつ自立していく子どもたちは、「かわいいと思えない」こともあると言いつつも、やっぱり大好き!、と言ってくれるセイラの存在に、安心して物語を楽しむことができます。ありのままの自分を受け入れてもらえるしあわせが、子どもの自己肯定感に繋がっていくのでしょう。サーカスから家に戻ってきたラルフを「おまえがいなくてさびしかったよ」と抱きしめてくれるお父さんと同じように、子どもにあくたれをされて叱ったときは、最後は抱きしめて、“あなたは大切な存在なんだ”と、伝えてあげたいですね。
そして、自然への興味をひろげてくれる絵本としておすすめしたいのは、『根っこのこどもたち 目をさます』です。
木々が葉っぱを落としている冬が終わり、春が近づいてくると、地面の下では、土のお母さんが根っこの子どもたちを、起こしてまわります。はじめは眠そうにしていた子どもたちも、やがて、自分たちが起きるときがきたのだと喜び、春を迎える準備を始めます。色とりどりの春の服をまとい、虫たちにも春の色を塗ってあげると、いよいよ春がやってくるのです。花の子どもたちは青い空の下で、明るい幸せな日々を過ごし、そして、また冬がやってくると、土のお母さんに見守られながら、眠りにつくのです。
色鮮やかな黄色の表紙がとてもキレイな絵本です。この絵本で語られるのは、冬は落葉・落花していても、春になると色とりどりの花が咲く、という自然科学の世界です。春夏秋冬、美しい四季の景色が花の子どもたちの姿をとおして描かれています。画集のように美しい絵と石井桃子先生の美しい日本語訳で楽しむことができる、リアリティあふれる自然科学のファンタジー。季節の廻り、木々や花々の命の廻りを感じることで、自然への関心、好奇心を刺激してくれるでしょう。
集団で生活していると、どうしてもほかの人と比べて劣等感を感じたり、嫉妬する場面もでてきますが、子どもたちに、「唯一の存在」であること、「大切な存在」であることを伝えてあげたいですね。そして、自分を大切にし、自分と同じくらい他者を大切にしてほしいと思います。
ご紹介した5冊はいずれも「童話館ぶっくくらぶ」の「小さいさくらんぼコース(およそ5~6才)」で配本しています。「童話館ぶっくくらぶ」の配本コースもご覧ください。(配本コースはこちらから▶)
『はじめてのキャンプ』
林 明子 作・絵
福音館書店
『あくたれラルフ』
ジャック・ガントス/作
ニコール・ルーベル/絵
いしい ももこ/訳
童話館出版▶詳しくみる
『根っこのこどもたち 目をさます』
ヘレン・ディーン・フィッシュ/文
ジビレ・フォン・オルファース/絵
いしい ももこ/訳編
童話館出版▶詳しくみる
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