童話館編集部スタッフ思い出・イチオシ この1冊 第5回
皆さんは、子どものころに出会った物語を、大人になってから読みかえした経験はありますか?
家で読んでもらった絵本、図書室や図書館で借りた本、友だちが薦めてくれた本…。
時を経て、改めて読んでみると、昔読んでいた記憶がよみがえり、さらなる気づきを与えてくれることがあります。
今回は、私が小学生のときに出会い、大人になってから再び手にとった絵本のなかの一冊『ねずみのとうさんアナトール』をご紹介したいと思います。
パリの近くの小さなねずみ村に住むアナトールは、8人家族の父親です。毎晩、仲間と一緒にパリへでかけ、人間の家で、家族のための食べものを探していました。
ある夜、人間が、ねずみたちを悪く言っているのを耳にしたアナトールはショックを受けます。
妻のドーセットから「なにか、人間に おかえしが できればいいんだけど。」となぐさめられたアナトールは、「さいこうにおいしい」「とてもおいしい」「おいしい」「あまりおいしくない」「まずい」という文字を書いたカードを持って、ひとりチーズ工場の試食室へ向かいました。
子どものころ、一番わくわくしたのは、チーズ工場の試食室にあるたくさんのチーズに、文字の書かれたカードを、アナトールがピンで刺している頁でした。カードに手書きされているひと言がおもしろく、また、楽しそうに誇らしげにカードを持っているアナトールの表情に惹かれていました。
大人になり、さまざまな経験をしたうえで読むと、家族や周りの人をしあわせにしながら仕事をしたり、誇りをもって暮らしたいと知恵をふり絞ったり、誰もしたことがないことに勇敢に挑戦したりする姿に、アナトールの人柄を感じます。
さらに、アナトールが気落ちしたときは励まし、ひとりで行動したいと言ったときには詮索せず、「友だちってのは、そうそう気をわるくしないものさ。信じあっているからな。」と、さらっと言える友だちのガストン。夫が悩んでいるときは、気持ちに添い、さりげなくアドバイスをくれる妻のドーセット。父親を尊敬しているかわいい6人の子どもたち。正体不明のアナトールへ真摯に対応するチーズ工場の人たちなど、ほかの登場人物も、とても魅力的です。
また、フランス国旗と同じ青・白・赤の3色のみで描かれているのもおしゃれで、街並み、家のインテリア、洋服など…どの絵も、ずっと眺めていられます。改めて、子どものころ、いい絵に触れていたんだなぁと感じます。
お子さんはもちろん、大人の方も、ぜひ手にとってお楽しみください。
(担当:M)
『ねずみのとうさんアナトール』
イブ・タイタス/文
ポール・ガルドン/絵
晴海 耕平/訳
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