シリーズ〈今月の1冊〉 - 2024年10月『青の読み手』
シリーズ今月の1冊で、今回ご紹介する10月の本は、「大きいりんごコース」の『青の読み手』です。今年度のリストからラインナップされました。
ファンタジーが好きならまちがいなく楽しむことができるし、この本で初めてファンタジーに出会うという人も、いつのまにか物語の世界に入りこみ、楽しむことができる作品です。
中世ヨーロッパを思わせる架空の国、ラベンヌ王国を舞台に、ノアの旅が始まります。
主人公のノアは、ラベンヌ王国の王都ミラの貧民街で暮らす、裏の仕事も行うなんでも屋「下町ネズミ」の一員です。捨て子で家族を知らないノアには、たったひとり、姉と慕う少女 ロゼがいますが、そのロゼは3年前、突然姿を消し、今も行方知れずのまま。それでも諦めずにロゼの行方を捜しつづけるノアの前に、謎の男が現れ…、
「修道院にある本をとってきてほしい。成功報酬として娘の行方を教えてあげよう」
魔法の本、予言、謎の依頼主、行方知れずの少女、黒魔術…。もうこれでもか、というくらいワクワクする要素がつめこまれていて、まさに「王道ファンタジー」です。
といっても、「王道ファンタジー」がどういうものかは、明確には定義されていないと思いますので、「王道」と考えられる要素を私なりにあげると、
1)架空の国が舞台。魔法や天使、悪魔、妖精などが人間と共存している
2)ヒロイン(幼馴染の少女)が誘拐され(てい)る
3)主人公がなんらかの宿命を背負っている
4)主人公がヒロインを救うため、悪を倒す旅にでる
5)主人公が旅の途中で師や仲間と出会い、成長する
6)主人公が仲間と力をあわせて、悪を滅ぼし、世界に平和をもたらす
という感じでしょうか。
では、この『青の読み手』は、というと、もちろん、1)~6)すべての要素を含んでいます。
詳しく語るとネタバレになってしまいますので、ここでは、5)の主人公の仲間についてとりあげたいと思います。
ヒロインを救うため、悪を倒す旅にでる主人公には、サポートしてくれる仲間が必要です。ひとりの力ではできないことも、仲間と力をあわせれば成し遂げることができる、それがファンタジーの醍醐味でもあります。
とすると、仲間たちが魅力的ではないとおもしろさは半減してしまいます(特に私はお気に入りの登場人物に肩入れをして読むので、重要なポイントです)し、いやな登場人物ばかりだと、いやな気持ちになって、途中で読むのをやめてしまうかもしれません。
ドラマや映画でも、「名脇役」(最近だと「名バイプレーヤー」でしょうか)にもスポットがあたりますし、アカデミー賞でも「助演男優賞」「助演女優賞」がありますね。それくらい、主人公の脇を固める登場人物は物語のおもしろさを左右する存在なのでしょう。
『青の読み手』にも名脇役がたくさん登場します。
まずは、ノアの相棒、人語を話すねずみのパルメザン。表紙の真ん中で、存在感を放っていますね。文字が読めないノアの代わりに読んでくれる心強い存在ですが、たまに読みまちがいや言いまちがいをする一面もあります。言いまちがいをして、ノアにツッコまれる、そんなふたりのやりとりが、物語に日常感を与えています。
そして、キーアイテム<サロモンの書>。ノアが修道院に盗みに入り、手にした魔法の本で、自分の意志で本棚を移動することができます。ノアに「なんとかいえよ。さもないと、破っちまうぞ。」と言われて姿を消すところは拗ねた子どもみたいですし、思わせぶりなことだけ告げて姿を消すところは古の預言者をきどるおじいちゃんみたいで、だんだん親しみがわいて、次の登場が待ち遠しくなってきます。
ほかにも、ロゼとうりふたつの囚われの王女 セシル、ノアの手助けをしてくれる修道僧 トマス、などなど、一癖も二癖もある魅力的な「名脇役」たちが、たくさんいます。きっと、お気に入りの登場人物に出会えるでしょう。
そんな「名脇役」たちとノアの旅は、『青の読み手』だけでは終わりません。
実は、『青の読み手』は、シリーズ全4巻の1巻めで、「起承転結」の「起」にあたります。つまり、『青の読み手』は序章に過ぎず、ノアが自身の宿命を知る旅は、これから始まると言っても過言ではないのです。この先、さらなる困難が待ちうけているノアたちの旅がどのような決着を迎えるのか、続巻を手にして、完結まで見届けてほしいと思います。
(担当:S)
『青の読み手』
小森香折 作
平澤朋子 絵
偕成社
「童話館ぶっくくらぶ」での配本コース ▶「大きいりんごコース」(およそ10~11才)
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