文学のなかの「カステラ」

夏も終わりに近づきましたが、まだまだ暑い日が続いています。それでも、風がほんのり涼しく感じられる夜も増えてきました。
もう少し秋めいてくると、温かい飲み物とお菓子の時間が楽しみになりますね。
さて、お菓子についての問題です。室町時代末期にポルトガル人によって長崎に伝わり、昔は「加須底羅」「家主貞良」と書かれていたお菓子は何かわかりますか。
答えは、「かすていら」と読まれていた「カステラ」です。
南蛮菓子「パンデロー」や「ビスチョコ」と、同じ原料の「小麦・卵・砂糖」を日本独自の繊細な焼き加減で日本人好みになるようにつくられ、カスティーリャ地方から来たため「カステラ」という名前になったのだとか。甘く口触りがいい上品な「カステラ」は、今も昔も多くの人に愛されていますが、文豪たちにも愛され、「カステラ」が作品のなかにでてくることがあります。
『坊ちゃん』や『吾輩は猫である』で知られている夏目漱石は、『虞美人草』の作中で、独特の当て字にして「チョコレートを塗った卵糖(カステラ)」と表現しています。
『あめふり』『まちぼうけ』『からたちの花』など数々の童謡や短歌、歌謡で知られている福岡県柳川出身の北原白秋は、『抒情小曲集 思ひ出』に「カステラの縁の渋さよな、褐色の渋さよな、粉のこぼれが眼について、ほろほろと泣かるる。…」という詩や、「かすてらの黄なるやはらみ新しき味ひもよし春の暮れゆく」という句、また『桐の花とカステラ』という随筆を残しています。
芥川龍之介は、「カステラの焼けの遅さよ桐の花」という俳句を詠み、長崎の老舗のカステラ屋にその俳句が飾られています。これは、大好きなカステラの焼き上がりをまだかな、まだかなと、甘い香りをかぎながら待っている初夏のひとときを詠んでいます。
そして大正11年、2度めに長崎に訪れたとき「芥川龍之介が在崎した時、カステーラを非常に好み毎日一斤位食べていたが、この人はカステーラはちぎって食べるの上手いといって、パンのように、大きなカステーラを手に持ちながらちぎって食べていた。」(『長崎郷土物語』歌川龍平/著)という記述が残されています。
少し贅沢ですが、ときには一斤でなくとも大きめに切ったカステラを手でちぎり食べながら、芥川龍之介の作品を読むのも風流かもしれません。
「童話館ぶっくくらぶ」では、夏目漱石といえば『坊っちゃん(文庫)』(「大きいぺんぎんコース」およそ12~13才)。
芥川龍之介といえば、『杜子春・くもの糸』(「小さいジュニアコース」およそ13~14才)がラインナップされています。
そのなかの『トロッコ』(大正11年発表)を読み終えたとき、良平にとって、念願のトロッコに乗れたはいいが、帰りは怖く心細い思いをしたその日は、自由奔放な子ども時代から、大人の世界へ一歩足を踏み入れた日だったのかもしれない、私のその日はいつだったんだろうか…と思いを巡らした作品でした。
皆さんも「カステラ」を片手に、日本の文豪たちの作品を開いてみませんか。
(担当:U)
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