シリーズ〈今月の1冊〉- 2025年9月『ウィリーをすくえ!チム 川をいく』

私がご紹介する「今月の1冊は、『ウィリーをすくえ!チム川をいく』(「小さいさくらんぼコース」およそ5~6才)です。
物語は、川を流れ着いた瓶に入っていた手紙を見つけるところから始まります。このように、海を漂う瓶が流れ着いて、なかに異国のおもちゃや手紙を見つける場面は、映画などでも目にしたことがあるのではないでしょうか。
もし、自分も同じように海に流したら、どこかで誰かが見つけてくれるだろうかと、想像したことがある人もいるでしょう。
『ウィリーをすくえ!チム 川をいく』も、かえるのウィリーからのSOSの手紙を受け取った、野ねずみのチムとはりねずみのブラウンさんが、ウィリーを助けに向かうところからスタートします。
しかしながら、小さな世界の強大な敵はどぶねずみ。そして、そのアジトまでの道案内をつとめるのは、川魚のウグイ。いかだに乗り、川を進むチムとブラウンさんの行く先には、流れを阻む障害物や、めうしやめんどり、鴨との遭遇もあります。小さき者たちの目線で見る、その大きさは、頁をめくった先のイラストを見れば、一目瞭然。読者の皆さんもぜひ、いかだに乗ったきぶんで楽しんでほしい場面です。
それにしても、身体の大きな相手を前にしながら、ウィリーのもとにまっすぐ向かうチムの姿は勇敢そのものです。同行するブラウンさんやウグイにも心強さを感じていることでしょう。
そして辿り着いたどぶねずみのアジト。捕らわれたウィリーを見つけたチムが、おおぜいのどぶねずみたちから助けだすようすに、緊張感が漂います。それでも、どぶねずみたちに気づかれないように、ひっそりと助け、逃げだしたふたり(二匹)が、アジトを離れるまでに大捕り物はないけれど、大きな者たちに立ち向かって戦う小さき者たちの大きな勇気には元気と安心をもらえるでしょう。
どぶねずみたちへの最後の細やかな仕返しは、チムたちにとって「成敗!」といった気持ちでしょうか。
はじめはハラハラドキドキする気持ちで、最後は温かい気持ちで読み終えることができるこの1冊を、私は、“小さな生き物たちが織り成す、小さな世界の時代劇かもしれない”と思っています。
ここで言う時代劇とは、皆さんご存じのような、印籠を持った御供と諸国漫遊の旅をするご隠居様や、腕の桜吹雪の刺青が記憶に残るお奉行様がでてくるような類のお話のことで、最後はもちろん「めでたしめでたし」で終わるお話です。
ですから、かつて私は、小さな大冒険のなかで、勇気と優しさが感じられるこの絵本を、入学祝いの贈り物としたこともありました。「ほんの少しだけ、一歩進む気持ちを持てますように」と願いながら。
最後にひとつ。読み終えたあとに、チムとブラウンさんの関係が気になった人はいないでしょうか。何せ、ブラウンさんはブラウン「さん」と呼ばれているのです。少し歳が離れているのかな、ご近所さんかな、などと想像してみますが、小さき者たちに近い読者の子どもはきっと、また違うふたり(二匹)の関係性を見出すことでしょう。仲間はいろいろな出会いでつくられるからおもしろいのですね。
ぜひ皆さんも、手にとって読んでみてください。
(担当:N)
『ウィリーをすくえ! チム 川をいく』
ジュディ・ブルック/作・絵
秋野 翔一郎/訳
童話館出版 ▶詳しくみる
「童話館ぶっくくらぶ」での配本コース ▶「小さいさくらんぼコース」(およそ5~6才)
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