シリーズ〈今月の1冊〉 - 2024年6月『貸出禁止の本をすくえ!』
シリーズ<今月の1冊>
今月ご紹介するのは、「小さいぺんぎんコース(およそ11~12才)」の『貸出禁止の本をすくえ!』です。
6月にはいり、いつごろ梅雨入りするか、そんな話題があがるようになりました。日本気象協会によると、今年の梅雨入りは全国的に平年より遅く、九州から東北南部にかけては6月中旬、東北北部は6月下旬に梅雨入りとなる予想だそうです。梅雨入り早々に大雨となる可能性もあるようですので、 雨ばかりで外にでて遊べない、でかけられない、そんなときはぜひ、ご家庭で、絵本・本を楽しみながら、ゆっくり過ごしてみるのもいいですね。
今月は、大人も子どもも楽しめる読みもののなかから、『貸出禁止の本をすくえ!』をご紹介します。この本は、今年度から新たにラインナップされました。
長いお話を読むのが得意なほうではない私も、どんどん惹きこまれて、あっというまに読みすすめられた1冊です。
物語の主人公は、小学4年生の内気な性格の女の子エイミー・アン・オリンジャー。
ある日、学校の図書室から、エイミー・アンが大好きな本が消えてしまいます。保護者からの申し立てで、貸出禁止になっていたのです。そのうえ、PTA会長をはじめとする一部の保護者たちが、「子どもたちへの配慮」を名目に次々貸出禁止措置を講じようとしだしたので、図書館司書やエイミー・アンをはじめとする子どもたちは……。
貸出禁止とされた本を救うことはできるのでしょうか。
貸出禁止の本がいったいどうなってしまうのか、その展開をハラハラドキドキしながら見守る楽しさはもちろんですが、私がこの物語に惹きこまれたのは、主人公のエイミー・アンや、彼女を取り巻く親、先生といった大人のようすなどが、とてもリアルで、終始共感しながら読めたからです。
エイミー・アンはいつも、思ったことを口にだせずついつい飲みこんでしまうような女の子ですが、私にもその気持ちはよくわかります。特別おとなしく、口べたというわけではなくても、小学校の高学年くらいになると、周りの人たちのようすやふんいきからつい言葉を飲みこんだり、がまんしたり、譲ったり…。それに、親が忙しいことも理解できるし、誰かが悪いわけでもないこともよくわかるので、なおさら言えなくなります。だからよけいに、自分の気持ちに折り合いがつけられずモヤモヤする、そんなこともありました。
一方でエイミー・アンの両親のように、家事や仕事、それから小さい妹たちのお世話でいつもあわただしく、「心ここにあらず」のようすは、まるで今の私のようで、ハッとしました。わが家も、小学校高学年の長女に、つい、1歳の末っ子のことを頼んだり、がまんさせたりしてしまうので、長女の気持ちをエイミー・アンが代弁してくれているようにも感じ、もっと長女の気持ちにも向き合ってあげなければいけないと思いました。
というように、子どもだったころの気持ちと、今の親としての気持ちを行ったりきたりしながら楽しみました。どちらの立場でも共感できるからからこそ、内気だったエイミー・アンが、貸出禁止騒動をきっかけに、少しずつ、本当の気持ちを言えるようになり、行動に移せるようになる姿や、両親がエイミー・アンの気持ちに気づいてくれるようになる姿は、とても嬉しく、勇気づけられました。
また、この本のなかにでてくる貸出禁止本のなかには、『クローディアの秘密』や『マチルダは小さな大天才』など、「童話館ぶっくくらぶ」でもお馴染みの作品が登場しますので、子どもたちはきっと、より興味深く楽しんでくれるに違いありません。
これらの本はどれも、実際にアメリカの図書館で過去に異議申し立てや貸出禁止措置を受けたことがある、というのも、この物語において大切な要素です。このことについては、「ぶっくくらぶ」の会員さんへお届けしている会報誌「ぶっくくらぶ通信」でも詳しく述べていますので、ぜひ会員の方はご覧ください。会員ではない方は、ご入会をお待ちしております。
小学校高学年ぐらいになると、電子メディアをはじめ、ほかのことに興味が移ったり、塾や習い事で忙しくなったり、以前のようには読書をしなくなったり、と心配している親御さんたちも多いようです。でも、だからこそ、楽しい本との出会いが大切です。楽しい本との出会いが、いずれ、子どもたちを本の世界へと誘ってくれるに違いありません。
そのためにも、まずは親御さんが読んでみて、「この本おもしろかったよ」「こういう話だったよ」などと、子どもたちが本を手にとるきっかけをつくってあげてほしい、と思います。
(担当:Y)
『貸出禁止の本をすくえ!』
アラン・グラッツ/作
ないとうふみこ/訳
ほるぷ出版
「童話館ぶっくくらぶ」での配本コース ▶「小さいぺんぎんコース」(およそ11~12才)
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