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文豪 芥川龍之介を偲んで  ー 河童忌


河童忌

 

7月24日は何の日でしょう?と聞かれてピンときた方はいらっしゃいますか。

この日は大正から昭和初期にかけて活躍した文豪、芥川龍之介の命日で、河童忌と呼ばれています。なぜ河童忌なのかといいますと、芥川自身が後年河童を好み、よく絵を書いていたこと、さらには代表作に『河童』があることから、“河童忌”と呼ぶようになったそうです。

 

芥川龍之介。今でもその名を知らない人はいないほど、有名な作家であり、国語教育でも彼の作品にふれる機会が多くあります。また毎年文学賞の一つ、芥川賞(正式には芥川龍之介賞)の発表があるたびに、耳にする名前でもありますね。(芥川賞は彼の友人菊池寛が彼の業績を記念し、1935年に創設。)

 

ここで簡単にではありますが、芥川龍之介の生涯についてふれておきます。

芥川龍之介は、189231日東京都京橋区(現 中央区明石町)にて、新原敏三とフクの長男として生まれましたが、生後7か月のころ、母のフクが精神に異常をきたしたため、母の実家の芥川家に引き取られました。その母とは、11才のときに死別。その翌年、フクの兄である伯父の芥川道章の養子となり、芥川姓を名乗ることになりました。
成績優秀だった芥川龍之介は、無試験で第一高等高校へと進んだ後、1913年に東京帝国大学(現 東京大学)の文科大学英文学科へ進学。在学中の1914年に高校の同期生、菊池寛や久米正雄などとともに同人誌『新思潮』を刊行し、そこで処女作となる『老年』を「柳川隆之助」の名で発表、作家活動をスタートさせました。1915年には代表作の一つである『羅生門』を「芥川龍之介」の名で発表、1916年に発表した『鼻』が夏目漱石の目に留まり、その後の活動の後押しとなりました。

卒業後の1918年、大阪毎日新聞社へと入社しますが、出社の義務がない新聞への寄稿が主な仕事だったそうです。翌1919年、塚本文と結婚し、三人の子宝に恵まれますが、1923年頃から心身を患い、ついに1927724日享年36才(満35才)、自らの手でその生涯を閉じました。芥川家の菩提寺、慈眼寺(じげんじ)にある芥川龍之介の墓には、今も彼の作品を愛してやなまい人々が訪れるそうです。

 

彼の残した作品は、『羅生門』『杜子春』『鼻』『地獄変』など数多くあります。しかし、芥川龍之介の作品と聞けば、純文学…、難しそう…、授業で一部読んだけどなんだか暗い(おそらく羅生門)…、など少し重たいイメージがあると思います。が、今回私がご紹介するのは子どもにも読みやすい、『くもの糸』です。初めての児童文学作品として書かれたもので1918年に発表さました。

私が初めてふれた芥川作品で、それは忘れもしない小学校の授業で聞かされたレコード(時代ですね…)での朗読劇でした。終わりに近づくにつれ、周りの温度が急に下がるようなあの感覚を今でも思いだせます。

 

あらすじはこうです。

杜子春・くもの糸ある日のこと、お釈迦様が極楽の蓮池のふちを歩いていました。この蓮池からは、下にある地獄のようすをはっきりと見ることができました。お釈迦様が地獄にある三途の河や針の山の景色を眺めていると、一人の男の姿が目に留まりました。その男の名前は犍陀多(カンダタ)。この男は多くの悪事に手をそめた大泥棒でしたが、生前にひとつだけ善行 ー 道を歩く蜘蛛を踏みつぶそうとしたことを思いとどまったこと ー をしていました。そこで、お釈迦様は彼を救いだそうと、一本のくもの糸を地獄の底で苦しむ犍陀多のもとへおろすのですが…。

 

とても短い作品なので、この先はぜひお読みいただきたいのですが、人間の持つ本性とでもいうのでしょうか、陰の部分があぶりだされていると感じます。と同時に、自分のなかにも確かに似たような感情があることに思い当たり、当時小学生だった私は怖くなったのではないかと、改めて読み返した今そう思います。さらに犍陀多の行動の一部始終を極楽より見ていたお釈迦様が、悲しそうな顔をされたあと、ぶらぶらと歩きながら去っていく、その描写にももう取り戻せない悲しさを感じて、今一度のない人生を思い、ドキリとするのです。

 

多くのことを学び、知識として得た芥川龍之介が不安のなかを歩きながらも、作品を通して伝えたかったものは何なのか…。それは作品を読んだ人それぞれの心のなかに、その後の人生を悩み生き抜いていく力として確かに息づいていくのです。

芥川作品だけでなく、純文学と分類されているものは確かに手に取るには少しハードルが高いかもしれません。しかし、いつの時代にも変わらずにある人間の苦しみ、悩みが確かにそこにはあります。

この夏、純文学への扉を開いてみませんか?

 

(担当:A)

 


杜子春・くもの糸

『杜子春・くもの糸』

 芥川龍之介/作
 偕成社
 「童話館ぶっくくらぶ」での配本コース  ▶「小さいジュニアコース」(およそ13~14才)

 

 

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