フィンランド生まれの心やさしきトロール ー ムーミンの日
8月9日は世界中で愛されている物語の主人公、ムーミンの日です。このムーミンの日は、『たのしいムーミン一家』に代表される「ムーミン」シリーズの作者、トーベ・ヤンソンの誕生日から制定されました。(ムーミンの日決定にいたるお話は、公式サイトでご紹介されていますので、興味をもたれた方はご覧になってみてください。)
ムーミンの作者であるトーベ・ヤンソンは1914年、フィンランドの首都ヘルシンキで生まれました。小さいころから絵を書くことが大好きな女の子だったようです。夏の数週間は、自然豊かな郊外のサマーハウスで、自然に囲まれて過ごしました。幼少期のトーベにとって、宝物のような時間であり、このことがのちに彼女が紡ぎだすムーミンの物語のなかにも色濃く映しだされているのでしょう。
1939年、第二次世界大戦がはじまり、フィンランドも旧ソ連の侵攻により、戦争に巻き込まれていくさなか、トーベがイラストを描いていた政治風刺雑誌『ガルム』のなかにムーミンの原案キャラクターがひそかに誕生しています。最初は戦争に抗うトーベの分身のように描かれた小さな生きものでしたが、その後トーベによって、48ページの物語の主人公として生まれ変わりました。これがムーミンの物語の始まりとなる、最初の小さなお話です。(小冊子として出版されたこの話は長らくの絶版後、『小さなトロールと大きな洪水』と題され、「ムーミン」シリーズ8作完結後に本として出版されました。)
さて、私がムーミンに出会ったのは高校生。「よく知らないから改めて読んでみようかな?」と図書館で手にとったのが始まりです。ムーミンの丸っこい容姿から、きっとほのぼのしたお話だろうと思っていたら…、なんとも哲学的な話が散りばめられていたり、深みのあるキャラクター性で、ひとりひとりが魅力的!どんどんその世界にハマってしまい、あっというまに全8作を読んでしまったのでした。
ムーミン谷に住む生きものたちの何がそんなに魅力的なのか、今回読み直して改めて考えてみました。まずはそれぞれみんなが自分を生きていて、自由であること。つぎに、好きな事やものを持っていて、それに夢中であること。そして、そのことが誰にも咎められず、そのまま受け入れられていること。読みながら、自分もそのままの自分で許されるような、もっと自分を突きつめて生きてもいいような、そんな気持ちにさせられるのです。
『ムーミン谷の彗星』では地球に大きな赤い彗星がせまるという危機が描かれます。そんななかでも、冒険好きで謎の解明のために旅にでるムーミン(そんな彼は「最後はきっとママがなんとかしてくれる!」といつも思っています(笑))、すぐに会議を開きたがるスノーク、自分の前髪や足の輪っかのことがいつも気になるスノークのおじょうさん(日本のテレビアニメでは“フローレン”という名前で親しまれています)、自分の切手集めに夢中なヘムレンさん、頭上に彗星が迫っているというのに、ムーミンが帰ってきたときのためにケーキづくりをするムーミンママ…。少し書きだしただけでもこんなにおもしろい彼らは、それでもお互いを認め合って、尊重し合って生きているのです。
そしてキャラクターだけでなく、読んでいてハッとさせられる会話の数々もまた、ムーミンの物語の魅力のひとつです。
地球を壊してしまうかもしれない彗星を頭上に見ながら、ムーミン、スナフキン、スノークのおじょうさんはこんなふうに話します。
ムーミントロール 「彗星って、ひとりぼっちでほんとにさびしいだろうなあ……」
スナフキン 「うん、そうだよ。人間も、みんなにこわがられるようになると、あんなふうにひとりになってしまうのさ」
スノークのおじょうさん「どんなことがあっても、あなたがこわがらないうちは、わたしもこわがらないって約束するわ」
ムーミン谷のお話のはずなのに、急に現実世界に引き戻されるような、それでいて温かい気持ちになるような…。トーベが作りあげたキャラクターと物語が今なお新たな読者を生みだし、ひろまっていく理由はきっとこんなところにもあるのでしょう。
「ムーミン」シリーズ全8作はどのお話もおすすめで、ムーミン一家の本に囲まれていると、心のなかではいつもフィンランドの森のなかへでかけることができます。深い森のなかや、きれいな小川にかかる橋、透き通る湖、海風を感じる灯台など…。いつかトーベが生まれたフィンランドを訪れ、ムーミン谷の生きものたちの存在を感じてみたいと思っています。
(担当:A)
『ムーミン全集[新版]1 ムーミン谷の彗星』
トーベ・ヤンソン/著
下村 隆一/訳
講談社
「童話館ぶっくくらぶ」での配本コース ▶「小さいぺんぎんコース」(およそ11~12才)
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