童話館編集部スタッフ思い出・イチオシ この1冊 第4回
「この本に出合えてよかった」
私にとって『はてしない物語』はそう思わせてくれた1冊です。
8才くらいのころ、映画「ネバ―エンディング・ストーリー」が大好きで、この映画に原作があることを知り、図書館で手にしたのが1度めの出会いでした。
手にした本は、あかがね色で布ばりされ、中央には2ひきの蛇。まさに映画のなかで主人公バスチアンが手にしていた“魔法の本”そのもの!「これをひらけば私もファンタージェンに行けるかも」そんなことを思いながら、読みはじめました。けれど、8才の私にはちょっと背伸びした本だったようで、挫折…。最後まで読むことができないまま、その後しばらく手にすることはありませんでした。
そして、2度めの出会いは学生のころ。たまたま授業の一環で『はてしない物語』を読むことになり、久しぶりの再会でした。「そういえば、子どものころ、途中までしか読めなかったなあ」と少し警戒しながらも、いざ読んでみると、こんなにも楽しく、奥が深い物語だったんだと、その世界に引きこまれました。そして後半の、主人公バスチアンがどんどん闇に落ちていき、仲間を裏切り、過ちをくり返し、戦争まで引き起こす展開には、「辛い…」と思わずつぶやいていました。
バスチアンが自分の過ちに気づいたときには、仲間は誰もいなくなっていて、苦しさと後悔のなかたどり着いた“アイゥオーラおばさま”の家。バスチアンにかけられたのは「あなたは望みの道を歩いてきたの。…大きなまわり道をしたけれど、でもそれがあなたの道だったの」「そこへ通じる道なら、どれも、結局は正しい道だったのよ」という優しい言葉でした。
2度めにこの本を手にしたとき、私自身、大きな人生の選択をしたころで、それは“普通”とは少し違う道でもありました。自分の選択や選んだ道に後悔はしていないけれど、その過程で家族や親しい人たちの期待を裏切ってしまったり、悲しませてしまったり…。それでも今の自分自身を否定はしたくない、ではどうすれば?と答えのでない悩みを延々と考えている最中でした。ですから、そんななか目にした、このアイゥオーラおばさまの言葉は、まるで私に話しかけられているような気がして、物語のなかのバスチアンと同じように、ボロボロと涙がでてきて、心のなかがすっと晴れたような気持ちになったことを覚えています。人との出会いと同じように、本との出合いも、必要なときに必要な本と出合えるようになっているのかなと、この本との2度の出合いを考えると、不思議な気持ちになります。
『はてしない物語』は、「大きいぺんぎんコース(およそ12~13才)」にラインナップされています。そして、大きいぺんぎんコースの配本リストには「何かあって、心がくじけそうになったら、本をひろげてください。本はいつでも、あなたの味方、あなたの友達です。」という一文があり、私にとっては『はてしない物語』はまさにこの一文を象徴する1冊です。‟はじめてこの本を手にするお子さんたちが、どんな感想をもってくれるだろう”とか、“12~13才という年令でこの本を手にできるって、本当にうらやましいな~”とか、毎年、配本時期になると、自分の“推し” を送りだすような気持ちになります。価格は高めですが、この重厚感と装丁の美しさ…やはりハードカバーで手にしていただきたいなと、思います。
さて、みなさんにとっての「出合えてよかった1冊」はどんな本ですか?
「童話館ぶっくくらぶ」のお子さんたちが、配本をとおして、そんな1冊に出会えますように。
(担当:G)
『はてしない物語』
ミヒャエル・エンデ 作
上田真而子 , 佐藤真理子 訳
岩波書店
「童話館ぶっくくらぶ」での配本コース
▶「大きいぺんぎんコース」(およそ12~13才)
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