シリーズ〈今月の1冊〉- 2025年3月『ルピナスさん』
シリーズ・今月の1冊。今回ご紹介する3月の本は『ルピナスさん(小さいりんごコース)』です。
数年ぶりの厳しい寒さに身が震えながらも、気づけば季節の移り変わりを迎えようとしています。そんな春の訪れが待ち遠しいこの時期にぴったりの、題名にもなっているルピナスが彩るお話は、とあるひとりの女性の人生を描いた物語です。
“ルピナスさんは、ある日おじいさんと「世の中を美しくする」という約束をします。やがて凛とした女性に成長した彼女はさまざまな国を巡りながら多くのことを吸収しつつ、忘れられない人たちと出会います。しかしとある国へ訪れた際、腰を痛め療養することに。痛みでふせってしまった彼女に元気をあたえたのは、大好きだったルピナスでした。そして彼女は、大切な約束を果たすために歩き出します。そして…“
作者のバーバラ・クーニーはアメリカの絵本・挿画画家です。その特長は抑えた色調のなかにも、それぞれの色の特色を最大限にいかして描くところでしょう。どこか温かみを感じる独特の画法は、詩情あふれるお話の世界をより引き立たせてくれます。
ところで皆さんは、ルピナスという花をご存じですか。
ルピナスは日本だと4月下旬から6月ごろに咲く、大ぶりな花芽が美しいマメ科の植物です。その花芽の色も赤やピンク、黄色や青に至るまでさまざまな色を見ることができ、とても華やかです。また、その花芽は藤の花に似ていることもあり、下から上へ花が咲き上がることから、日本では昇藤(のぼりふじ)とも呼ばれているそうです。多くの人を魅了してやまないこの花は、作中でも主人公を励ましその背を押してくれます。
お話のなかで語られるルピナスさんの姿は、いつでも自分の夢に向かってひたむきに前へ進んでいきます。心から自分の人生を楽しんでいるその姿は、不安ばかりが先立ってしまい、つい一歩踏み出せずちゅうちょしまいがちな私にとって、まさに憧れの女性そのままです。
しかし、そんなルピナスさんにもその歩みを止めてしまうアクシデントに見舞われてしまうことに。痛みで思うように体が動かず、寝込んでしまった彼女でしたが、そんな彼女の心を励ましたのが、そう、ルピナスでした。
人生とは、楽しいことばかりではありません。時に苦しい瞬間がやってきます。そんな辛い時であっても、支えてくれるものや励ましがあれば、いつだって立ち上がり再び歩みだせる。そんな強さを彼女は絵本を通して教えてくれることでしょう。
さて、ルピナスさんはどんな形でおじいさんとの約束を果たすのでしょうか。それはぜひ、絵本を開いてご自身でのぞいてみてください。
バーバラ・クーニーが織りなす美しい挿絵と共に、その世界観を味わってみていただけたらさいわいです。絵本を読み終えたあと、きっと春が待ち遠しくなるはずです。ぜひ、温かくなりましたら、ルピナスの花を探してみてください。その鮮やかさが、皆さんの心に温かさを届けてくれることでしょう。
(担当:I)
『ルピナスさん』
バーバラ・クーニー/作
掛川恭子/訳
ほるぷ出版
「童話館ぶっくくらぶ」での配本コース ▶「小さいりんごコース」(およそ9~10才)
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