シリーズ〈今月の1冊〉 - 2024年8月『あなたってほんとにしあわせね!』
シリーズ<今月の1冊>
今月ご紹介するのは、「大きいくるみコース(およそ4~5才)」の『あなたってほんとにしあわせね』です。
両親と3人で暮らしていた女の子の家に、赤ちゃんが生まれることになりました。少しずつ大きくなるお母さんのおなかを見ながら楽しみにしているようすの女の子ですが、ちょっぴり不安な気持ちもあるようです。そして不安は的中。入院するお母さんとしばらく離れなければいけなかったり、生まれてきた赤ちゃんにお母さんを占領されてしまったり、これまでのようにはいきません。でも、そんな女の子に、お母さんは…。
この絵本は、「童話館ぶっくくらぶ」でも、とりわけ反響の大きい1冊です。
そして、わが家でも、いろんな意味で思い出深い絵本です。
下にきょうだいが生まれたときの、上の子の揺れ動く気持ちがよく描かれているので、まさにそんな状況にあるご家族には、大ヒット、じんとくるものがあるでしょう。しかしそれゆえに、そうではないご家庭にはちょっとヒリヒリする、そんな1冊になってしまうこともあるようです。
確かに、本来とても喜ばしいはずの「妊娠」「出産」も、状況によっては時にナーバスな話題になってしまうことがあります。
わが家も、娘はひとりっ子。お友だちが次々と「お姉ちゃん」「お兄ちゃん」になって、「よかったねー」「おめでとう!」と声をかけられるようすを見た娘から、「どうして、うちにはあかちゃん生まれないの?」「サンタさんに赤ちゃんお願いしたらくる?」と毎日のようにたずねられた時期がありました。そんな娘に罪悪感を抱いたり、「ひとりはかわいそうよ」という言葉に人知れず傷ついたり…。ですから、そんなタイミングでこの絵本を読むのは少し勇気がいることでもありました。また「あかちゃんまだ?」って言われないかな、と。
けれど、実際に読んであげてみると、当の娘は案外あっけらかんとしていて、「お友だちの◯◯ちゃんもこの女の子みたいな気持ちだったのかなあ」「◯◯くんもいつも、だっこしたりオムツ変えたりしてるもんねー」と言いながら、心から楽しんでくれたようです。
「なぜ?」と子どもらしい素朴な疑問を口にしたとしても、同時にほかの人の状況や気持ちを感じて、心から共感する心もすでに持ち合わせていたのです。そんな娘のようすにホッとし、冷静になってこの絵本を改めて読んでみると、確かに、タイトルの「あなたってほんとにしあわせね!」はなにも、「お兄ちゃんになったから」「お姉ちゃんになったから」と、特定の状況を「しあわせ」と表現しているわけではありませんでした。
冒頭に「はじめはね、ひとりだけのわたしだったの。おかあさんとおとうさんとわたしだけ」と書かれてあるように、誰にでもおこりえる、環境や関係性の変化をテーマに、その過程で出会うかもしれない不安や複雑な気持ちをていねいにすくいあげ、それらを乗り越えた先にも「あなたってほんとにしあわせね!」といえる状況がやってくるよ、あなたしだいだよと語ってくれているように感じられたのでした。
こうして、「妊娠」「出産」にかぎらず、内容によっては時に受け入れにくい作品もあるかもしれません。もちろん、そんなときに無理して読む必要はないのですが、一方で、予想もしなかったような反応が子どもからかえってきたり、時間をおいて読むことでより深く楽しめたり、むしろ思い出の1冊になったりすることもあるようです。そう、すぐれた絵本は、開くタイミング、開く相手によって、それぞれ新しい何かを持って必ず立ち現れてくれます。ぜひ、その醍醐味まで味わってみてください。
(担当:C)
『あなたってほんとに しあわせね!』
キャスリーン・アンホールト/作
ほしかわ なつこ/訳
童話館出版▶詳しくみる
「童話館ぶっくくらぶ」での配本コース ▶「大きいくるみコース」(およそ4~5才)
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