あなたの逢いたい一行はなんですか? -読書週間
今年も、「読書週間」が始まりました。
この「読書週間」は現在、11月3日の「文化の日」をはさんだ前後2週間で、10月27日の日曜日から11月9日の土曜日までです。
1947(昭和22)年、戦火の傷あとが残る復興の過程で、「読書の力によって、平和な文化国家を創ろう」というスローガンのもと、図書の重要性を再確認し、普及を目指して第1回「読書週間」(11月17日~23日)が開かれました。第2回めからは現在の10月27日から11月9日に期間が変更され、毎年開催されています。図書館や学校などでの行事や掲示物を、懐かしく思いだす人もいるのではないでしょうか。
私たちのもとへも毎年、「読書週間」の案内が封書で届きます。中には、ポスターやステッカーなどが入っています。封を開けるとき、楽しみにしているのは、ポスターに採用されている標語やイラストです。
今年 2024年・第78回の標語は、「この一行に逢いにきた」です。
たくさんの応募のなかから選ばれただけあって、わずか10文字で表現された、とてもいい標語です。イラストも、「読書」という言葉が持つ重々しさを、軽やかに表現しています。
さて、今年の標語「この一行に逢いにきた」ですが、皆さんにも、そんな出逢いの経験があるでしょうか?私にもいくつかありますが、とりわけ印象深いのは、次のふたつです。
夏目漱石の『草枕』
「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。とかくに人の世は住みにくい。住みにくさが高じると、安い所へ引き越したくなる。どこへ越しても住みにくいと悟った時、詩が生れて、画が出来る。」
宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』
「なにがしあわせかわからないです。ほんとうにどんなつらいことでもそれがただしいみちを進む中でのできごとなら峠の上りも下りもみんなほんとうの幸福に近づく一あしずつですから。」
ただただ楽しくて頁をめくっていたはずなのに、ふと思いがけず頁をめくる手が止まったり、戻ったりして、「いい文章だな」とくり返しその一行を目で追ったことがある人もいらっしゃるでしょう。そうして、ノートに書きとめたり、覚えたりと、忘れられない出逢いとなる…読書には確かにそんな醍醐味もあります。
そうして、あわただしくて粗雑な日々が美しいものに感じられたり、苦しみから少し解放されたり、のちのち人生の転機になったり…そんなこともあるのではないでしょうか。
先ほどのふたつも、まだティーンエイジャーだった私をハッとさせ、本への信頼を積み重ねるきっかけになった一行です。そして今も、ことあるごとに思いだしては噛み締めています。
「読書」というと、ほかにも「読書ばなれ」「読書量」「読書マラソン」といった言葉があり、どこか義務的で、精神鍛錬要素をはらんだふんいきが感じられますが、本来「読書」は娯楽であり、人生を豊かにしてくれるもの、ということを忘れずにいてほしいと思います。そして、そんな魅力をやわらかに伝えていける私たちでもありたいと願います。
食欲の秋、スポーツの秋、芸術の秋、と秋の楽しみはたくさんありますが、「忘れられない一行に出逢える」、そんな瞬間が皆さんにおとずれる秋になりますように!
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