童話館スタッフ思い出・イチオシ この1冊 第9回
わが家での思い出の絵本といえば『ラチとらいおん』(「小さいさくらんぼコース」およそ5~6才)です。
ラチは世界でいちばん弱虫な男の子です。暗いところが怖いし、犬も苦手。友だちもラチをばかにして遊んでくれず、一日中絵本を見てばかりいました。なかでも強くて勇ましそうならいおんの絵がいちばんすきで、「ぼくに、 こんな らいおんがいたら、 なんにも こわくないんだけどなあ」といつも思っていました。ところがある朝、目を覚ましてみると、ベッドのそばにはちいさなあかいらいおんが…。それから、ラチはそのらいおんに強くなるための秘訣をいろいろと教えてもらい、少しずつ自信をつけていき…。
娘も息子も大好きな絵本でしたが、特に息子は表にでるのが得意ではなく控えめな性格だったため、そんな自分をラチに重ねていたのか、幼稚園のころはよくリクエストされていたような気がします。
そして、この絵本を読んであげるときは、らいおんがラチに教えてあげていた“強くなるための体操”をまねして、「いち にっ さん! …」と、子どもたちと体操するのがわが家のお決まりで、とても楽しい時間でもありました。
その後、息子が小学校3年生になったとき、やんちゃな友だちとのことで悩んでいた時期がありました。私は何もしてあげることができずにいましたが、ただ息子の応援になればと、久しぶりにこの本を読んであげました。
すると翌日、息子はサルがついたTシャツを着て「ぼくにはサルがついているからだいじょうぶ」と言いながら学校に行き、どうやら友だちにも自分の気持ちを伝えることができたようでした。息子にはサルが自分の味方についていて強くなったような気がしたのでしょう。それから、その友だちとの関係も少しずつ改善していったようでした。
私がいろいろな言葉をかけても、息子の心にはあまり響かなかったにもかかわらず、勇気をだして一歩踏みだすことで状況を変えることができるということを、絵本を通じて感じてくれたのだと思います。ですから、私にとっても絵本の力を感じられた思い出の1冊となっています。
そんな息子も春から大学生になって親元を離れていきました。いろいろな困難にぶつかることもあると思います。
ラチにとってのらいおんのように、子どもたちもそれぞれらいおんのような存在を見つけていってほしいと願っています。もちろん、親の私たちもそのひとりでいられたら…とも。
(担当:K)
『ラチとらいおん』
マレーク・ベロニカ/文・絵
とくなが やすもと/訳
福音館書店
「童話館ぶっくくらぶ」での配本コース ▶「小さいさくらんぼコース」(およそ5~6才)
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