シリーズ〈今月の1冊〉 - 2024年12月『トムとピッポさんぽへおでかけ』
今月ご紹介するのは、「大きいいちごコース(およそ2~3才)」の『トムとピッポさんぽへおでかけ』です。
トムと、さるのぬいぐるみの「ピッポ」は大の仲良しです。
ある冬の寒い日、おかあさんとトムは散歩にでかけることしました。お母さんは、外は寒いからぼうしをかぶり、マフラーをまいて、てぶくろをしようね、と言って、トムにマフラーを巻いてくれました。そしてトムも同じように、ピッポのお世話をしてあげます。準備ができたら、出発。でも、途中で転んで、ふたりは泥だらけに…。
短いお話しですが、2、3才くらいの子どもとの日常が詳細に描かれていて、読んでいるととても温かい気持ちになる絵本です。
この絵本の作者であるヘレン・オクセンバリーは、イギリスを代表する絵本作家で、ご主人でもあるジョン・バーニンガムと同様に、たくさんの作品を残しています。「ぶっくくらぶ」でも、『きょうはみんなでクマがりだ』(「小さいくるみコース」およそ3~4才)や『ケーキがやけたら、ね』(「大きいいちごコース」およそ2~3才),『はじめてのえほん みる・きく(2冊)』(「たんぽぽコース」およそ0~1才)など、他にも採用されているので、見覚えがあるという人も多いのではないでしょうか。
オクセンバリーは『トムとピッポさんぽへおでかけ』のように、子どもとのなにげない日常を描くのが得意です。子どものそばで、お世話をする母親ならではの視点に共感が寄せられるのでしょう。会員の方からも、「ピッポの表情が変わるところや、お母さんの愛情がよく伝わってくるところが好きです」「絵も文章もやさしくて、何度読んでも飽きません」「ヘレン・オクセンバリーさんの描く子どもの表情やしぐさが大好きです」といった感想がよく寄せられます。
また、なにげないようですが、計算し尽された作品づくりも、その魅力を高めていると言われています。シンプルな文章、かわいらしくて表情豊かな絵、白黒ページとカラーページの視覚効果によって、あっという間のうちに想像力たっぷりに物語を楽しませてくれます。
あわただしく過ぎていく小さい子どもとの毎日は、とくに何か大きな出来事が起こるわけでもありませんが、この絵本は、そんなありふれた日常のなかに、しあわせの瞬間があることに気づかせてくれます。また、「このお母さんのように、子どもにやさしくていねいに接してあげたいな」と思えたり、トムが、自分がお母さんからしてもらったようにピッポのお世話をしてあげている場面を微笑ましく思ったりと、読み手の大人の気持ちも不思議と穏やかにしてくれます。
これからますます寒い時期になりますが、絵本はこうして、なにげない暮らしのなかにある小さなしあわせを感じさせてくれることがあります。皆さんも『トムとピッポさんぽへおでかけ』をぜひお子さんといっしょにお楽しみください。
(担当:R)
『トムとピッポ さんぽへおでかけ』
ヘレン・オクセンバリー/作・絵
ほしかわ なつこ/訳
童話館出版 ▶詳しくみる
「童話館ぶっくくらぶ」での配本コース ▶「大きいいちごコース」(およそ2~3才)
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