「絵本とのつきあい方」4~5才のお子さんの場合
子どもの身体も心もいちじるしく成長する時期ですね。
幼稚園や保育園などでのお友だちや先生とのかかわりのなかで、自分と他者とを区別するようになり、他者への思いやりや共感を表現するようになってくるでしょう。また、少しずつ、自分の心のなかへと目を向け始める時期でもあるので、がまんや嫉妬などの感情とはじめて出会うものの、うまく表現できず、癇癪をおこしてしまうこともあるかもしれません。
そんな成長いちじるしいこの時期には、少し複雑なお話や絵本の登場人物の気持ちに触れられるようなお話、そして人生の道しるべとなる原作に忠実な昔話にも出会ってほしいと思います。
言葉の力や理解力がついてくると、ただおもしろいだけのお話よりも、少し複雑なお話のほうが楽しめるようになってきます。まずおすすめするのは、ユーモアたっぷりの『へびのクリクター』。
息子から誕生日のお祝いとして送られてきたへびに「クリクター」という名前をつけてかわいがるボドさん。愛情をたくさん受けたクリクターは、長く、強く育ち、言葉も覚え、子どもたちとも仲良く遊びます。そして、ついには、泥棒をグルグル巻きにして捕まえる、という大活躍!へび、という特徴を生かした、とてもおもしろい絵本です。
次におすすめするのは、『かぼちゃひこうせん ぷっくらこ』です。
友だちのおおくまくんとこぐまくんは、ある日、庭に種を植えました。芽がでて、どんどん大きく育ち、とうとう、家よりも大きなかぼちゃになりました。そこで、ふたりは、かぼちゃのなかへお引越し。かぼちゃの家は、ある嵐の日、海に飛ばされ、ついには空へと浮き上がり…。ひこうせんへと姿を変えたかぼちゃの家で、ふたりは空の冒険へ!
この絵本では、ふたりがどんな空の冒険をするのかは描かれていません。この先何が待ち受けているのか、どこへ向かうのか、ふたりの未来は読者の想像に託されているのです。もしかしたら、富士山の山頂でひと休みしているかもしれませんし、もとのおうちに戻っているのかもしれません、それとも、宇宙まで飛びだして、月を探検しているかもしれませんね。はじまったばかりのふたりの空の冒険を想像する楽しさ。それは、おおくまくんのセリフ、「おもうこと また たのし、か!」に表れています。子どもたちには、想像することは楽しい!、そう思ってもらいたいですね。
このような少し複雑なお話は想像力を育ててくれる一方で、想像力を十分に働かせないと楽しむことはできません。もし、むずかしいと感じるお子さんがいたら、絵を指さし、言葉で補足してあげてください。耳でお話を聞き、絵をじっくりと見ることで、絵本の世界を想像し、その世界を楽しむことができるようになっていきます。そして、そうして培われた想像力が、この先の一人読み、読書へとつながっていきます。
次に、登場人物の気持ちに触れられるようなお話は、はじめての感情に出会いはじめた子どものよき先輩、よき友だちとなってくれるでしょう。たとえば、弟妹の存在に葛藤を感じている子どもには、『あなたってほんとにしあわせね』と出会ってほしいと思います。
弟が生まれて、「あなたってしあわせね」と言われるお姉ちゃん。けれど、お姉ちゃんは「わたし、ぜんぜん しあわせと おもわないときも あったわ」、と語ります。兄姉にしてみたら、弟妹が生まれたことで、両親を独り占めできなくなるし、がまんすることは増えるし、とうれしいことばかりではないでしょう。でも、弟妹の誕生を喜んでいる両親や大人の前では言えない、そんな兄姉の気持ちをこの絵本は、ストレートに代弁してくれます。
複雑な感情を覚え、心が揺れ動くこの時期は、その感情をうまく言語化できないことも多いと思いますが、そんなとき、気持ちを代弁してくれる絵本があったら、どんなに心強いでしょう。何度も「読んで」と持ってくる絵本は、今のその子の心に寄り添ってくれているのかもしれませんし、すなおにアピールできない気持ちを、わかってほしい、という訴えなのかもしれません。子どもが「読んで」と絵本を持ってきたときは、ぜひ、その絵本を読んであげてください。
最後に、原作に忠実な昔話との出会いについて。昔話は、物語にのせて、「人としてどう生きていくか」ということを語ってくれます。たとえば、勧善懲悪だったり因果応報だったり…。「人へのやさしさや思いやりを忘れてはいけないこと」「悪いことをすれば、必ずそれなりの報いを受けること」など、人として生きていくうえで、大切なことばかりです。
昔話のなかには、一見、残酷そうに思える場面がありますね。『三びきのこぶた』では、一番めと二番めのこぶたはオオカミに食べられてしまいますし、そのオオカミも三番めのこぶたに食べられてしまいます。また、『おおかみと七ひきのこやぎ』では、六ぴきのこやぎを食べたオオカミは、寝ているところを母さんやぎにおなかをさかれ、こやぎの代わりに石をつめられ、そして井戸に落ちて死んでしまいます。このような結末に“オオカミがかわいそう”という声を耳にしたり、オオカミは死なずに仲直りするという結末に変わったお話を目にすることもありますが、オオカミは「狼」ではなく、「悪」の象徴として描かれていますので、正しく生きることを語るには、オオカミは死ぬことが必要なのです。だからこそ、“原作に忠実な”昔話と出会っていただきたいのです。
心の成長にともない、ものの好ききらいがでてきます。今までは「絵本を読んでもらう」ことを楽しんでくれていた子どもが、「読んでもらう」のをいやがったり、絵本のストーリーをきらいと言ったり…、これまでとはことなる反応をすることがあるかもしれません。ですが、それは、子どもの心が育ち、自立してきている証でもあります。けっして、絵本がきらいになったわけではないので、「絵本を読まなくていい」と子どもが言ったときは、時間をおいて誘いかけてみてください。もしかしたら、少し反抗しただけかもしれませんし、「自分で読みたい」という自立心の現れなのかもしれません。また、最初に読んであげたときは、イマイチな反応をした絵本であっても、心が成長したあとだと楽しんでくれることもよくあります。ご自宅にある絵本で、読み聞かせの出番が少ない絵本があったら、少し時間をあけて、読んであげてみてください。今度は違った反応をしてくれるかもしれません。大人の私たちでも、最初はおもしろくなかったのに、思いだして読んでみたら案外おもしろかった、という経験はよくあると思います。子どもも同じですので、お気に入りの絵本はもちろん、出番が少ない絵本もまた、子どもが自由に手に取れる場所に置いておいてほしいと思います。
ご紹介した5冊はいずれも「童話館ぶっくくらぶ」の「大きいくるみコース(およそ4~5才)」で配本しています。「童話館ぶっくくらぶ」の配本コースもご覧ください。(配本コースはこちらから▶)
『へびのクリクター』
『かぼちゃひこうせんぷっくらこ』
文:レンナート・ヘルシング
絵:スベン・オットー
訳:奥田継夫
アリス館
『あなたってほんとにしあわせね』
作:キャスリーン・アンホールト
訳:星川 菜津子
童話館出版 詳しくはこちら▶
『三びきのこぶた』
作:イギリスの昔話
絵:ポール・ガルドン
訳:晴海 耕平
童話館出版 詳しくはこちら▶
『おおかみと七ひきのこやぎ』
作:グリム
絵:フェリクス・ホフマン
訳:せた ていじ
福音館書店
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