シリーズ〈今月の1冊〉 - 2025年1月『しずかでにぎやかなほん』
今月ご紹介するのは、「小さいさくらんぼごコース(およそ5~6才)」の『しずかでにぎやかなほん』です。
子犬のマッフィンは「なにかの音」で目を覚ましました。
それは、とても静かな音。
小さな青い花が咲きかけている音? それとも高いビルが空をひっかいている音?
マッフィンが聞いた、静かな音の正体は…?
子犬のマッフィンの視点で語られる、様々な静かな音の表現は、私たちがふだん気にもとめないような世界を見せてくれます。短いお話ではありますが、表現や絵にたくさんのこだわりが詰まっています。
まず注目していただきたいのは、『しずかでにぎやかなほん』という書名。
その対照的な言葉に、私も初めて読んだときは「静かなのににぎやかって…?」とふしぎに思いましたが、読み終わると、その印象は一変しました。
「静かな音」がていねいに描写されているこの絵本では、斬新な表現と華やかで迫力のある絵によって、その一瞬一瞬が鮮やかに切り取られていて、静かなのに心が躍るようなわくわく感や楽しさを感じさせてくれます。この感覚を表すとしたら、まさに「しずかでにぎやか」です。
日本語訳を手がけられているのは、あの谷川俊太郎さん。
軽やかでテンポがよく、思わず声にだして歌いたくなるような谷川さんの言葉選びは、日本語の美しさを最大限にひきだしているように感じます。
この絵本には、「音」についての表現がたくさん書かれていますが、直接的に音を表す「擬音語」はいっさい使われていません。それどころか、「バターが溶ける音」「空を引っかく音」といった、あまり想像がつかないような表現が多く見られます。
もし静かな音を表すのに「しーん」「ひっそり」などの直接的な言葉が使われていたなら、きっとどんな音なのかを理解して、すぐに読み終えてしまうでしょう。けれどそれはただ事実として受けとめただけで、心の中には残らないと思います。
この絵本は、あえて間接的に表現することで、静かな音を「想像する」、その大切さを教えてくれます。
近頃は、短時間で効率的にできることや物がにんきで、本も同じように、「〇日で●●が分かる!」などのインパクトが強いもの、要点だけをまとめたものをよく目にします。私自身もそういった本を読む機会は増えました。軽い気持ちで、隙間時間に読書を楽しむことができるので、よいところもあります。
しかし、短時間でさらっと読める本は、ふしぎと内容もすぐに忘れてしまいます。深く考えなくても簡単に答えを知ることができるのは便利ですが、結局のところ、時間をかけて考えて初めて、それが自分のものとなり、心に残っていくのかなと思います。
自分の力で考え、答えを見つけるには、長い時間が必要ですし、悩み疲れてしまうこともあるかもしれません。けれど、その中で自分なりに見つけたものはきっと何物にも代えがたい宝物になってくれます。
この絵本は、そんなふうにじっくり考える機会をくれます。
作中の静かな音がマッフィンにはどのように聞こえているのか。それは人それぞれで、はっきりとした「正解」はありません。この絵本の表現を感じて、想像して、浮かんできたその音こそが、マッフィンが聞いた「しずかな音」です。
今回ご紹介できたこの絵本の魅力はほんの一部で、まだまだ注目していただきたい表現がたくさんあります。それはこの絵本を手に取って、確かめてください。
子どもも大人も、どんな世代、どんな立場の方も楽しむことができる、この『しずかでにぎやかなほん』。皆さんもぜひ、自分だけの「しずかな音」を、心で聞いて楽しんでください!
(担当:K)
『しずかでにぎやかなほん』
マーガレット・ワイズ・ブラウン/作
レナード・ワイスガード/絵
谷川 俊太郎/訳
童話館出版 ▶詳しくみる
「童話館ぶっくくらぶ」での配本コース ▶「小さいさくらんぼコース」(およそ5~6才)
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